ここでは、外国人が賃貸住宅から退去時の敷金トラブル(原状回復義務)についてご説明します。

相談内容

私は、2年間暮らした部屋が手狭になったため、転居することに決めました。不動産屋さんに伝え、契約終了前に引っ越したのですが、不動産屋からの通知書で、本来戻ってくるべき敷金が壁紙、じゅうたんの取替え費用や修理費、ハウスクリーニング代金まで差し引かれ、ほとんどゼロに近いことが分かりました。

契約時の敷金は戻ってこないでしょうか。

目次

敷金トラブルについて

原状回復について

敷金トラブルを避けるためには

借主の注意点

貸主の注意点

東京都の賃貸住宅紛争防止条例

全国的には「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

特約がある場合の有効性

敷金トラブルについて

立ち退きの際の敷金返還額については、トラブルの原因となりやすく、外国人だからということではなく、日本人の間でも同じように多発しています。

そのため、東京都では、賃貸住宅紛争防止条例で、貸主と借主の責任区分を明確にして、トラブルの解決を図っており、貸主の説明を義務付けています。

民法には、貸主には賃貸住宅の使用のために必要な修繕をなす義務があると定められていますが、貸主が借主の転居時を利用し、壁紙、畳等のリフォームを行うことが多く、原状回復が元の状態よりもグレードアップするような現象もあります。

原状回復について

(1)経年変化及び通常の使用による住宅の損耗等の復旧については、賃貸人の費用負担で行い、賃借人はその費用を負担しないとされています。

(2)賃借人の故意過失や通常の使用方法に反する使用など、賃借人の責めに帰すべき事由による住宅の損耗等があれば、賃借人は、その復旧費用を負担するとされています。

例外として、特約について、賃貸人と賃借人は、両者の合意により、退去時における住宅の損耗等の復旧について、上記(1)・(2)の一般原則とは異なる特約を定めることができるとしています。

ただし、特約の全てが認められるわけではなく、内容によっては、無効とされることがあることも示唆しています。

上記のケースで、請求されたじゅうたんや壁紙の取替え及びハウスクリーニングについて、特約を結んでいて、その内容を確認してサインをしたのであれば、同意したことにもなり、支払義務は発生しますが、通常の使用での汚れ破損であれば、自然の消耗として貸主責任を主張することは可能です。

しかし、借主の故意・過失により、通常の使用方法に反した(善管義務違反)結果であれば、請求は認めざるを得ないでしょう。

敷金トラブルを避けるためには

このようなトラブルを避けるためには、ご自分でも、入居時の確認シートか写真を残しておくなどの努力も必要でしょう。

また、退去の際には、貸主・借主双方が一緒に部屋の確認作業を行うべきです。先に引っ越してしまいますと、貸主から勝手に請求されかねません。引っ越し先では、このようなことが起きないように気を付けてください。

そして、特約については、条例にもありますように、内容によっては無効になることもあります。この件については、東京都の賃貸ホットライン(03-5320-4958)又は消費者センターでご相談ください。

もし支払義務が生じても、問題の壁紙、じゅうたんやハウスクリーニング代金が妥当であるか、業者等に尋ねたほうが良いでしょう。

最終的に解決が難しい場合は、簡易裁判所での調停あるいは少額訴訟で解決を図ってください。

借主の注意点

おおむね外国籍の方は、敷金は返ってくるものと思い込んでいるのか、転居を決めると、さっさと新しいところに引っ越してしまい、後から不動産管理会社あるいは大家さんから送られてきた計算書の金額がゼロ若しくはオーバーしていることに驚き、どうして修繕費やハウスクリーニング代金が差し引かれているのかと思います。

修繕内容から、生活していた期間に故意・過失による損傷の有無を確かめることや、台所の使用方法などを尋ね、契約書の内容を確認しますが、原状回復については、何も聞かされていないことや、特約には多くの項目が記載されているなど、本人が契約内容を把握していないことが見受けられます。

外国人の場合、一旦争いになったとき、日本人のようにある程度のところで手を打つことはないと考えたほうが良いでしょう。

貸主の注意点

貸主は、争いを避けるためにも、契約の折には、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会のホームページから言語別の契約書を取り出して、説明を具体的にしたほうが良いでしょう。

ただし、ハウスクリーニングに対しては、日本人と外国人の感覚も違い、払わなくていいとは言い切れず、台所の使用頻度を尋ね、クリーニング代金の妥当性を調べましょう。

東京都の賃貸住宅紛争防止条例

東京都の賃貸住宅紛争防止条例は、平成16年3月に公布、その年の10月に施行されています。

条例内容を、詳しく説明した「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」には、原状回復に関しての、貸し方借り方の責任区分が詳しく掲載されていますが、インターネット上でも読むことができます。

この条例は、東京都内のみの適用であり、罰則規定はありませんが、悪質な業者に対して勧告を行い、勧告に従わない場合には公表できるとしています。

全国的には「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

全国的には「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(国土交通省のホームページ)があります。

ガイドラインは、賃借人の修繕義務(原状回復)は、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」として、明渡し時の原状回復義務は通常の使用に伴う損耗については生じないこと、原状回復は借りた当時に戻すことでないことを明確にしています。

その上、経年変化通常の使用による損耗等の修繕費用は、家賃に含まれるものとしています。

ただし、あくまでも一つの判断基準であって、強制力のあるものではありません。参考として家の状況等が分かる資料や契約書を持参の上、市区町村の消費者センターや不動産相談所等に相談してみてください。

契約内容や部屋の使用状況によっては、簡易裁判所等の調停や少額訴訟を利用し解決を図ることもできます。

特約がある場合の有効性

①特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

上記を踏まえ、特約があっても裁判(簡易裁判所等)で争うことは可能であるとともに、平成13年4月1日以降の賃貸借契約については、消費者契約法10条により無効となる裁判例があります。