「上陸特別許可」・「上陸拒否の特例」は、上陸拒否事由に該当する外国人に対し、「特別に上陸を許可すべき事情がある」として上陸を許可することです。
目次
2 外国人が人身取引等により、他人の支配下に置かれて日本に入ったとき
3 その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき
上陸特別許可
「上陸特別許可」とは、上陸のための条件(入管法7条1項)に適合しないため、本来は上陸許可されない外国人に対し、法務大臣が「特別に上陸を許可すべき事情がある」として、裁量により与える上陸許可です。
上陸拒否の特例
「上陸拒否の特例」は、平成21年入管法改正で新たに設けられました。
これは、入管法5条1項の上陸拒否事由に該当する「特定の事由」があっても、法務大臣が相当と認めるときは、入国審査官、特別審理官、法務大臣と三段階の手続を経る「上陸特別許可」を行わずに、入国審査官が上陸許可の証印をできるようにする規定です。
具体的には、以下のように規定されています。
① 次の場合であつて、外国人が在留資格をもつて在留しているとき
・外国人に「上陸特別許可」、「在留資格変更許可」、「在留期間更新許可」、「永住許可」、「在留資格取得許可」、「再入国許可」、「在留特別許可」を与えた場合
(※みなし再入国許可をもって「上陸拒否の特例」の対象となるものではありません。)
・難民旅行証明書を交付した場合
・これらに準ずる場合として、法務大臣が認めた場合
②
・外国人に「在留資格認定証明書」を交付した場合
・外国人が旅券に日本国領事官等の査証(法務大臣との協議を経たものに限る。いわゆるSクリアランス査証)を受けた場合であって、特定の事由に該当してから相当の期間が経過していること
・その他の特別の理由があると法務大臣が認める場合
法務大臣が外国人について「特定事由」のみによっては上陸を拒否しないとしたときは、「通知書」が交付されます。
事前手続としての「在留資格認定証明書交付申請」
「上陸拒否事由」に該当する外国人が、上陸の許可を得たい場合は、あらかじめ「在留資格認定証明書交付」及び「査証発給」を得た上で、空港等で「上陸拒否の特例」の適用を受けるこになります。
「在留資格認定証明書交付申請」においては、「上陸拒否事由」に該当することをあらかじめ入管に対して明らかにした上で、家族の結合等の人道上の配慮の必要性を主張することになります。
法務大臣等が、「特別に上陸を許可すべき事情」があると判断したときには、「在留資格認定証明書」が交付されます。
交付される「在留資格認定証明書」の右上部には、「7-1-4」と赤字で記載されます。
これは、当該外国人が「上陸拒否事由」に該当し、本来は、上陸許可の要件を満たさないが、特別に上陸を許可すべき事情があると判断されたということです。
特別の理由があるとして、「上陸拒否の特例」の適用を前提とした在留資格認定証明書が交付されるための要件と、「上陸特別許可」を前提として在留資格認定証明書が交付されるために求められていた要件は同じです。
「上陸特別許可」の類型
「上陸特別許可」には、以下の3つの類型があります。
1 外国人が再入国の許可を受けているとき
通常、再入国許可を受けている外国人は、一定期間の在留を許可されています。
ただし、再入国許可を受けていれば、必ずこの「上陸特別許可」が得られるわけではありません。
例
① 適法に滞在している外国人が、「数次再入国許可」を得ています。
↓
②「退去強制事由」には該当しないが、「上陸拒否事由」に該当することになりました。
↓
③ その後、日本を出国しました。
上記の外国人が出国した場合、「上陸拒否事由該当期間内」再入国することは、通常できません。
(入管法別表第2の在留資格(永住者等)で在留し、人道上特に強く配慮すべき事情があるような場合を除きます。)
再入国許可は、基本的に「上陸拒否事由該当」後に得た許可をいいます。
「上陸拒否事由該当」後には、一定期間が経過しないと、再入国許可が得られないことがあります。
(ただし、特段の事情がある場合には、「上陸拒否事由該当」後間もない時点であっても、再入国許可が得られる場合があります。)
「上陸拒否の特例」が適用
「入管法5条1項4号、5号、7号、9号又は9号の2」の特定の「上陸拒否事由」に該当するものの、「上陸拒否の特例」が適用され、上陸許可される場合や、再入国許可を受ける場合には、「特定事由のみによっては上陸を拒否しないこととした」旨の通知書が交付されます。
そして、以後の上陸に際しても、「上陸拒否の特例」が適用され、入国審査官限りで上陸許可を受けられます。
法務大臣による上陸特別許可を受ける必要ありません。
具体例
例えば、
「永住者」の外国人が、数次再入国許可も得ていたが、懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受け確定したとします。
入管法別表第2の在留資(永住者等) を有する者が、執行猶予付きの有罪判決を受けても、入管法24条の「退去強制事由」には該当しません。
しかし、有罪判決を受けた後の、日本からの出国とその後の再入国が問題になります。
上記の外国人は、「上陸拒否事由」に該当すし、しかも「無期限上陸拒否事由」になります。
したがって、入管法別表第2の在留資格を有する者が、1年以上の懲役・禁錮の執行猶予付き有罪判決を受け確定した後、日本から一時的に出国し、再入国したい場合には、「上陸特別許可」又は「上陸拒否の特例」の適用を受けるしかありません。
外国人自らが上陸拒否事由に該当することを申告して通常再入国許可申請を行い、執行猶予期間の経過や特段の事情の存在により、再入国許可を得られた場合には、「上陸拒否の特例」の適用を受けられます。
2 外国人が人身取引等により、他人の支配下に置かれて日本に入ったとき
「上陸特別許可」として、この規定が設けられたのは、人身取引等の被害者である外国人を保護する必要があるからです。
人身取引等の被害者の上陸を拒否して本国に送り返した場合、本国でその生命、身体に危害が及ぶおそれもあるため、直ちに本国に送り返すのではなく、その上陸を特別に許可し、日本にある自国大使館や女性相談所等で保護措置を講じるのが相当であるからます。
3 その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき
「上陸特別許可」うち、実務上多いのは、「その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき」であります。
特に、陸拒否事由」に該当して上陸のための条件に適合しないが、家族の結合等の人道上配慮すべき事情がある場合が多いです。
「上陸特別許可」の要件
「上陸特別許可」は、上陸のための条件に適合しない者(特に上陸拒否事由該当者)の上陸を例外的に認めるものであり、実務上許可される場合は限定されています。
出国命令により出国した場合(上陸拒否期間は1年間)以外、許可されるためには、基本的に以下の要件を全て満たす必要があります。
ただし、これは、最低限の条件であり、全て満たしていても不許可となることがあります。
なお、以下の要件は、「上陸拒否の特例」の適用を前提とした「在留資格認定証明書」が交付されるための要件と同じです。
① 日本人、特別永住者、永住者、定住者と法的に婚姻が成立し、 婚姻信憑性の立証が十分になされていること
② 「在留資格認定証明書」交付時において、退去強制後2年以上経過していること
ただし、配偶者との間に実子がいる場合は、 退去強制及び婚姻後1年程度の経過で許可される場合もあります。
配偶者との間に実子がいない場合は、退去強制後、日本国外の配偶者のもとを複数回訪れて会っている事実が重要です。
③ 「在留資格認定証明書」交付時において、婚姻後1年以上経過していること
④ 入管法遅反罪で、執行猶予付き有罪判決を受けた後に退去強制された場合は、「在留資格認定証明書」交付時において、執行猶予期間もおおむね経過していること
ただし、配偶者との間に実子がいる場合や、実子がいなくともかなり頻繁に日本国外の配偶者のもとを訪れる等、婚姻の信憑性が非常に高いと判断される場合は、執行猶予期間が経過していなくても許可される場合があります。
入管法違反罪以外の罪により懲役・禁錮1年以上の刑に処せられた場合
入管法違反罪以外の罪により懲役・禁錮1年以上の刑に処せられた場合、又は薬物法令違反により刑に処せられた場合は、上記の要件に加え、次の状況についても、さらに厳格に審査されます。
・犯罪の内容・軽重に応じた期間が経過していること
・再犯のおそれがないこと
・日本での生活を認めるべき特段の事情(配偶者や子の病気等)の有無等
永住者が出国中に再入国許可期限が経過した場合
上記の場合以外に、「永住者」が再入国許可を受けて日本を出国したが、出国中に再入国許可期限が経過した場合に、「定住者」(告示外定住)での「上陸特別許可」を受けられる可能性があります 。
「定住者」での上陸特別許可を得られた場合、再度の永住許可申請については、居住年数基準は緩和され、継続在留5年は求められません。
永住者が上陸拒否事由に該当する場合
「永住者」が上陸許可申請したところ、実は上陸拒否事由(一定の前科がある等)に該当することが発覚した場合で、同居する配偶者や子がいるようなときは、「定住者」での上陸特別許可を受けられる可能性があります。
「上陸拒否の特例」の適用
上陸拒否事由に該当するものの、上記①~④の条件を満たす外国人が日本への入国を望む場合には、事前に、「上陸拒否の特例」の適用を前提とした「在留資格認定証明書交付申請」を行うことになります。
「短期滞在」での上陸拒否の特例の適用を求める場合には、査証免除国の外国人であっても、 在外公館に対し、上陸拒否事由を明らかにした上で査証申請を行い、査事前協議に持ち込みます。
「上陸拒否の特例」のポイント
上記2①~④の要件をクリアする場合であっても、「上陸拒否の特例」の適用を前提とした「在留資格認定証明書交付申請」の場面においては、「特別に上陸を許可すべき事情」があるか否か厳格に審査されます。
上陸拒否の特例(又は上陸特別許可)の場合は、いったん日本を出国しているため、在留特別許可よりもさらに厳格に審査されます。
従って、申請人は、上陸を特別に許可すべき「必要性」と「許容性」を十分な証拠資料とともに説得的に立証する必要があります。
必要性の立証
「必要性」としては、「婚姻による同居を、日本において可能とすべき人道上の必要性」です。
婚姻の信憑性は、知り合ったきっかけや交際・同居・婚姻に至った経緯等を詳細に記載することにより立証します。
また、当事者間の信頼関係・絆の厚さ・深さ、外国において生活することの困難性等をできる限り具体的に記載すべきです。
外国において困難性については、言語・文化・風習の違い、衛生事情、持病を外国で治療することの困難性等があげられます。
二人の間に子が生まれた事実(妊娠も含む)は、婚姻の信憑性を示すものとして非常に有利な事実であります。
退去強制後も真摯な交流・交際が続いていることは、上陸拒否の特例の適用を受けるためには必須であります。
具体的には、以下のものにより立証します。
・国際電話の回数 |
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通話記録や電話会社から送られる明細書により立証 |
・手紙やメール・LINE の内容 |
手紙の封筒と中身のコピーやメール・LINEをプリントしたものを提出 |
・生活費等の仕送りの事実 |
銀行等の送金記録により立証 |
・退去強制された後に外国人の本国に行った回数 |
例えば、 外国人の本国で結婚式を挙げたこと 外国人の親族に会ったこと 長期休暇には本国に行って、一緒に生活したこと等 上記の事実を写真、航空チケット、各種領収書等により立証 |
・退去強制される前に、「在留特別許可」を願い出ていたこと |
結果として許可されなかったとしても、「在留特別許可」を願い出ていたことは、二人の真摯な意思や信頼関係等を徴表するものとして重要な事実です。 一度、「上陸拒否の特例」の適用を前提とした在留資格認定証明書交付申請が不許可となったとしても、強い意思がある限り、あきらめずに一定期間経過すれば再申請すべきです。 |
許容性の立証
許容性としては、「退去強制されたものの、日本国にとって有害・負担となる存在とはいえず、上陸を特別に許可できる許容性」です。
有罪判決を受けずに退去強制された場合よりも、有罪判決を受けて退去強制された場合の方が不利です。
また、有罪判決の中でも刑がより重い方が不利益です。
心から反省し、更生したことを本人の反省文等により強く立証しなければなりません。
入管法違反以外でも有罪判決を受けた場合
入管法違反以外でも有罪判決を受けた場合には、また、当該外国人の配偶者として監督すべき立場にあったにもかかわらず、 犯罪を犯させてしまったことの分析と反省、二度と犯罪を犯させないための今後の具体的な取組み等を記載すべきです。
経済能力について
入管法は、当事者で自活できず、 生活保護等国の負担となる者は上陸を許可すべきでないと規定しています。
したがって、配偶者が日本で十分に安定した社会生活を営んでおり、経済生活上問題がないことを立証する必要があります。
「在留特別許可」については、配偶者が生活保護等を受けていでも、許可されえますが、「上陸特別許可」については、許可を得るのは難しいです。
経済能力の立証資料 |
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課税・納税証明書 在職証明書 源泉徴収票 給与明細書 確定申告書の写し 所有不動産の登記事項証明書 住居の賃貸借契約書等 |
住居の賃貸物件について
住居予定物件は実務上重要な審査ポイントです。
1LDKの物件では、同居は困難と判断される可能性がありますので、2LDK以上の物件を確保するのが望ましいです。
また、賃借名義人が他人を同居させることが賃貸借契約上、賃貸人が同意しなければなりません。
申請時の注意点
申請時注意点として、担当入国審査官の心を突き動かすような記載が何より重要です。
裁量の幅が広い入管法上の処分においては、「この案件には許可を与えるべき、与えなければならないという気持ち」を入国審査官に持たれるような理由書等を作成しなければなりません。
一人の人間である審査官の心を突き動かした結果、人道上の観点から行使される裁量により、許可とされることは、入管案件ではよくあることです。
上陸審査手続