ここでは、外国人が日本を出国した場合の「脱退一時金」の請求についてご説明します。

相談内容

私は、日本の大学を卒業後3年近く働きましたが、そろそろ帰国したいと考えています。会社を辞めて帰国するときの手続を教えてください。

厚生年金は戻ってくるようですが、税金が20%もかかると聞いています。本当ですか?
友人は、日本でこの税金を還付できるとも話していますが。

目次

外国人の脱退一時金と帰国時の手続について

脱退一時金について

 提出書類

 提出時の注意事項

脱退一時金を請求する際の注意事項

① 老齢年金の受給資格期間

② 加入期間の通算

③ 支給額計算の上限

脱退一時金にかかる所得税

外国人の脱退一時金と帰国時の手続について

帰国時の手続には、年金・健康保険の社会保険関係と所得税・住民税などの税金関係及び在留カードの返納の手続があります。

年金の脱退一時金の手続については、簡単に説明しますと、外国人の年金支払者を対象として最高5年を限度に
厚生年金の還付を行っています。

この手続は、ご本人が出国後に還付請求することができます。出国後の還付金は、いわゆる税法上の非居住者に対する支払にあたり、源泉徴収される税金が20.42%となりますが、この還付金は日本で支払われた退職所得(所得税法171条)の選択課税としても扱われ、日本国内で源泉徴収された税金額の還付を受けることができます。

出国後の脱退一時金の手続完了の後に、日本国内で確定申告により、税金の還付請求を行うことになります。

そのため出国前には、必ず納税管理人を指定し、納税管理人より税金の還付請求を行ってください。

住民税は前年度の課税所得額で決定されることから、毎年6月から支払が始まっています。会社の給与から控除される場合、それは前年度の住民税ですから、直近の1年については、住民税の支払がなされていません。
これについては、支払方法を会社側と相談するか、脱退一時金の還付手続を行う納税管理人に託すか、支払方法を決定して帰国するようにしてください。

また、健康保険については、会社を辞めたときに資格喪失手続がされると思いますが、まれに国民健康保険に加入している方がいます。その方は帰国が決まれば、必ず保険証を持参して、市区町村窓口に出向き最後の手続をしてください。在留カードについては、帰国の際の出国審査の折に返納してください。

脱退一時金について

外国人が日本を出国した場合の「脱退一時金」の請求についてご説明します。

日本で滞在期間中に、国民年金、厚生年金保険及び共済組合等に加入していた期間については、被保険者資格を喪失して、以下の①~④すべての条件に該当するときに、脱退一時金を請求することができます。
ただし、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に、請求する必要があります。

① 日本国籍を有していない

② 国民年金の保険料納付済期間等の月数、又は厚生年金保険(共済組合等に加入していた期間を含む)が6月以上ある

※国民年金の保険料納付済期間等

国民年金の第1号被保険者としての
保険料納付済期間の月数、
保険料4 分の1 免除期間の月数の4 分の3に相当する月数、
保険料半額免除期間の月数の2 分の1 に相当する月数、
保険料4 分の3 免除期間の月数の4 分の1 に相当する月数
を合算した月数のことをいいます。

③ 日本に住所を有していない

※市区町村に転出届を提出したうえで、再入国許可・みなし再入国許可を受けて出国する方は請求することができますが、
転出届の提出がない場合、再入国許可の有効期間が経過するまでは、国民年金の被保険者とされることから、脱退一時金は請求できませんので、ご注意ください。

④ 年金(障害手当金を含む)を受ける権利を有したことがない

提出書類

脱退一時金請求書(国民年金/厚生年金保険)

添付書類

① パスポート(旅券)の写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ)

② 日本国内に住所を有しなくなったことが確認できる書類(住民票の除票の写し等)
※出国前にお住まいの市区町村で転出届を提出した場合には、住民票の消除情報から日本国内に住所を有しないことを確認できますので、添付書類②は不要です。

③ 「銀行名」「支店名」「支店の所在地」「口座番号」及び「請求者本人の口座名義」であることが確認できる書類
(銀行が発行した証明書等。または、「銀行の証明」欄に銀行の証明を受けてください。)

④ 基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類

提出時の注意事項

出国前に日本国内から請求書を提出する場合には、住民票の転出(予定)日以降に、請求書を日本年金機構へ提出してください。(脱退一時金の受給要件として、日本年金機構が請求書を受理した日に、日本に住所を有していないことが必要です。)

郵送の場合には、転出(予定)日以降に請求書が日本年金機構に到達するよう、送付してください。

脱退一時金を請求する際の注意事項

以下の注意事項をご確認し、将来、年金を受け取る可能性を考慮したうえで、ご請求ください。

① 老齢年金の受給資格期間

(2017 年8 月より、25 年から10 年に短縮されています。)

年金の受け取りに必要な「資格期間」が10 年(120 月)以上ある場合、将来、日本の老齢年金を受け取ることができます。ただし、脱退一時金を受け取った場合、脱退一時金を請求する以前の、すべての期間が年金加入期間ではなくなります。

※合算対象期間とは

合算対象期間とは、過去に日本の年金制度に加入していなかった場合などでも、資格期間に含むことができる期間です。(ただし、年金額の算定には反映されません。)

例えば、日本で永住許可を得た外国籍の方については、海外在住期間のうち、1961 年4月から永住許可を取得するまでの期間(20 歳以上60 歳未満の期間に限る。)が合算対象期間となります。
その他、詳細については、年金事務所へお問い合わせください。

② 加入期間の通算

日本と年金通算の協定を締結している相手国の年金制度に加入していた期間がある方は、一定の要件のもと、加入期間を通算して、日本及び協定相手国の年金を受け取ることができる場合があります。

ただし、脱退一時金を受け取った場合、脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなるため、通算することができなくなります。

日本と年金通算の社会保障協定を締結している相手国(2022 年6 月現在)

ドイツ、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、フィンランド、スウェーデンなお、最新の社会保障協定締結状況については、日本年金機構ホームページをご確認ください。

「資格期間」とは?

・国民年金の保険料を納めた期間や免除された期間

・厚生年金保険や共済組合等の加入期間

・日本の年金制度に加入していなくても資格期間に加えることができる期間(合算対象期間)

③ 支給額計算の上限

(2021 年4 月より36 月(3 年)から60 月(5 年)に引き上げられました。)

脱退一時金の支給額は、日本の年金制度に加入していた月数に応じて、60 月を上限として計算されます。
ただし、脱退一時金の支給対象とする国民年金保険料納付済期間等又は厚生年金保険及び共済組合等の合計加入期間が2021 年3 月以前のみの期間となる場合は、36 月を上限として計算されます。

※日本の年金制度に61 月以上加入されていた方が、脱退一時金を請求した場合、支給金額は60 月を上限として計算されますが、脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなります。

※複数回の在留を繰り返し、日本の年金制度に加入する期間が通算で61 月以上になる予定の方で、加入期間に応じた脱退一時金の受給を希望される場合には、各在留期間終了後の帰国の都度、請求が必要になる場合があります。

例えば、3 年間(36 月)で、第1 号・2 号技能実習を終了し帰国した後、特定技能1 号(在留期間の上限5 年)として日本に入国する方は、第2 号技能実習終了後及び特定技能1 号による在留期間終了後に請求することで、各加入期間に応じた支給を受けることができます。

脱退一時金にかかる所得税

・非居住者の方が支給を受ける厚生年金保険の脱退一時金は、その支給の際に、20.42%の税金が源泉徴収されます。ただし、「退職所得の選択課税による還付のための申告書」を税務署に提出することで、源泉徴収された税金の還付を受けられる場合があります。

国民年金の脱退一時金は、源泉徴収されません。

・申告書の提出先

申告書の提出先は、日本国内における最終の住所地又は居所地を管轄する税務署です。

申告及び還付金の受け取りのためには、帰国前に、日本国内における最終の住所地又は居所地を管轄する税務署へ、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出する必要があります。納税管理人の資格は、日本に住所地又は居所地を有すること以外に特にありません。

「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出しないで帰国した場合には、申告時に申告書と併せて提出してください。

・申告書や届出書の様式は、国税庁ホームページに掲載しています。申告などの手続きについてご不明な点は、税務署にお尋ねください。

・脱退一時金の送金と同時に「脱退一時金支給決定通知書」を送付しますので、原本を所得税・消費税の納税管理人に送付してください。

請求者が脱退一時金の支給を受けずに死亡した場合

請求者の死亡当時、生計を同一にしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族が代わりに給付を受けることができます。ただし、本人が死亡前に請求書を提出している場合のみ該当します。