日本人との国際結婚で、外国人配偶者が不法滞在をしている場合には、多くのケースで在留特別許可を希望することとなります。
目次
退去強制手続を前提とした在留特別許可
日本人との国際結婚で、外国人配偶者が不法滞在をしている場合には、多くのケースで在留特別許可を希望することとなります。
不法滞在は、どんなに善良に長期間にわたり日本に滞在していても、その不法状態が自然に解消されることはなく、常に退去強制の可能性が付きまとうことになります。このような状況は、不法滞在を続けながら日本人との婚姻が数十年にわたり継続されていても同じです。
そのため、日本人と婚姻して家族とともに日本に生活基盤を築くのであれば、退去強制手続を前提とした在留特別許可を求めることは避けて通ることができません。
原則として入管法では不法滞在をしている人物は必然的に退去強制手続を受けることになるため、不法滞在者との国際結婚を考える場合には、選択肢として主に①出国命令制度を利用して帰国する、②何もせずに不法滞在の状態を維持する、③退去強制手続を前提として在留特別許可を求める、の3通りが考えられます。
①については帰国後の上陸拒否期間は1年となりますが、結婚後に夫婦が海外に別れて暮らすことになるため、よほどの事情がない限りは利用することはないものと思われます。
②については、そもそも日本に滞在していること自体が不法行為であり、このような状態を放置しておくことは許されることではありません。その上、外国人配偶者の在留問題の解決を先延ばしにしているだけであり、何ら問題の解決に働くことはありません。
そのため、日本人との婚姻で引き続き日本で生活することが前提であれば、原則として③の在留特別許可を求める方法によることとなります。
退去強制とは
「退去強制」とは、日本政府が好ましくないと認める外国人を行政手続により日本の領域外に強制的に退去させることを指します。この退去強制に該当するケースとしては、入管法第24条に記載されており、国際結婚に関連すると思われる主なケースは以下のとおりです。
1.不法入国者
有効なパスポートなどを所持せずに、又は他人のパスポートなどを使って日本に入国した者
2.不法上陸者
手段や方法は問わずに、上陸の許可などを受けることなく日本に上陸した者
3.偽造・変造文書を作成・提供した者
不正に上陸や在留するために、偽物のパスポートや書類を作成したり提供した者
4.資格外活動者
在留資格に許容される在留活動以外の「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」を、専ら行っている者
5.不法残留者(オーバーステイ)
在留期間の更新又は在留資格の変更を受けずに、日本に滞在することを許された期間を過ぎて滞在している者
6.刑罰法令の違反者
7.売春関係業務の従事する者
8.不法入国や不法上陸を幇助した者
9.退去命令違反者
この他にも要件は詳細に記載されていますが、一般的に国際結婚に関連して退去強制事由で問題となるのは上記のようなケースです。原則として、このようなケースに該当する者は、その全員が退去強制手続を受け、日本から出国することとなります。
このように、どのような人物の入国を拒否し、退去強制させるかの判断は、国際法上の一般原則として各国の裁量権に任されているのが現状であり、日本政府が非常に強い権限を持っているといえます。
とはいえ、法治国家である日本は、国内に長年にわたり適正に在留している外国人に対し何の理由もなく退去強制を命じることは通常はあり得ません。
国際人権B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)第13条には「外国人の恣意的追放の禁止」が定められており、「合法的にこの規約の締約国の領域内にいる外国人は、法律に基づいて行われた決定によってのみ当該領域から追放することができます。
国の安全のためのやむを得ない理由がある場合を除くほか、当該外国人は、自己の追放に反対する理由を提示すること、及び権限のある機関又はその機関が特に指名する者によって自己の事案が審査されることが認められるものとし、この為にその機関又はその者に対する代理人の出頭が認められる。」と明記されています。
日本での「法律に基づいて行われた決定」というのが、入管法で定める退去強制手続に該当します。
在留特別許可とは
さらに、日本から退去強制され出国することを前提とした手続中の特例的な措置として在留が認められるのが一般的に「在留特別許可」と呼ばれるものです。
言い換えれば、不法滞在やオーバーステイなどで退去強制事由に該当し、本来であれば日本から退去強制させなければならない者を、様々な事情を考慮して例外的に日本での在留を認めるのが在留特別許可です。この許可を受けるためには、退去強制手続を受けなければならず、結果として在留特別許可が認められなければ当然に退去強制令書が発付され、日本から出国せざるを得なくなります。
最終的にこのような決定を行うのは法務大臣であり、在留特別許可は法務大臣の裁決の特例とされています。
この在留特別許可は法務大臣の自由裁量による処分とされており、法律上では在留特別許可を外国人本人から申請する権利はないものとされています。
申請するための権利がなければ、申請する手段が存在しないことになり、在留特別許可申請という申請手続は法的には存在しません。つまり、在留特別許可を得るためには退去強制手続が前提となり、その手続中に日本に滞在したい旨を申し出ることになります。
また、最終的に法務大臣が「在留特別許可」を当該外国人に与えなかったとしても、その判断が自由裁量である以上、与えなかったこと自体が違法となることは原則としてあり得ません。
もちろん、その決定が不当かどうかという問題は残りますが、前述したとおり国際法上の一般原則にもあるとおり、どのような外国人の滞在を許可するかは主権国家の自由であり、外国人本人から在留を求めることを要求する権利はないとされています。
そのため、在留特別許可を得る際の外国人の立場は非常に弱く、「日本人との婚姻が成立すれば在留が許可される」といった単純なものではありません。
在留特別許可が許可されやすいケース
ただし、一般的に在留特別許可が許可されやすいケースとしては、以下の項目が考えられます。
1.日本国籍を持つ者と婚姻した外国人
2.「永住者」、「定住者」の在留資格を持つ外国人と婚姻した外国人
3.日本人との間に生まれた日本国籍の子の親である外国人
言うまでもなく、日本人と婚姻していても在留特別許可が得られずに退去強制となるケースもあり、逆に婚姻関係などがなくても、20年にわたり不法残留を続けていた外国人家族に許可された例もあります。
そのため、一概に上記のケースがすべてではなく、あくまでも個別の状況に応じて判断されると言えます。
在留特別許可に必要な資料
前述したとおり在留特別許可申請という申請は存在しません。在留特別許可制度は、退去強制手続の中で法務大臣から与えられるものであり、在留特別許可を得るために必要な書類や申請フォームが明確に定められている訳でもありません。
とはいえ、在留特別許可を求める人は多く存在しており、現実的な対応として出入国在留管理局では退去強制手続を前提に在留特別許可を希望する人に対しては、準備する資料や記入するフォームなどを用意しています。
以下に示すのは、現時点で東京出入国在留管理局が配布した必要資料一覧です。
※この他にも有利と思われる資料や説明しなければならないことなどがあれば、必要書類を適宜提出して構いません。
①申告書
②陳述書
③履歴書(配偶者用)
④質問書(配偶者)
ただし、記入フォームは出頭する出入国在留管理局により若干異なることもあります。
また、書類の内容や記載方法などは予告なく変更されることがあるため、退去強制手続を前提として在留特別許可を希望する場合には、必ず事前に問合せをして詳細を確認する必要があります。
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