退去強制手続には、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査、法務大臣の裁決があります。

目次

退去強制手続は、原則として以下のような流れで進むこととなります。

1.入国警備官の違反調査

退去強制手続の第一段階は、入国警備官が行う違反調査です。これは退去強制事由に該当すると思われる外国人に対して、入国、上陸又は在留に関する違反事件を調査することであり、違反事実の有無を明らかにするためのものです。

違反調査を行うに至るケースとしては、第三者からの通報や容疑者本人の申告、それに入国警備官が実際に現場にいて確認した場合などであり、違反調査を実行するためには退去強制事由に該当すると推測させる程度の資料があれば十分とされています。

2.収容令書による収容

そして、違反調査の結果、退去強制に該当する客観的かつ合理的な根拠がある場合には、入国警備官は収容令書によりその外国人を収容することとなります。退去強制手続を進めるに当たっては、容疑者をすべて収容する「収容前置主義」がとられているため、原則として退去強制事由に該当する外国人はそのすべてが収容されることとなります。

このようにして収容された場合の収容期間は30日以内とされていますが、やむを得ない事由がある時には、さらに30日延長することができるとされているため、収容令書により外国人を収容した場合には、最長で60日間の収容が可能となります。

このようにして外国人を収容した場合には、入国警備官から入国審査官へと身柄が引き渡されることになります。

3.入国審査官の違反審査

入国審査官へと身柄が引き渡されると、退去強制手続の第二段階と言える違反審査が行われます。

入国審査官は入国警備官から引き渡された調書や証拠物に基づき、その外国人が退去強制事由に該当しているかどうか、さらに出国命令対象者に該当しないかどうかを審査することとなります。

③-1 退去強制事由に該当しない→放免

審査の結果、入国審査官は退去強制事由に該当しないことが明らかになれば、すぐにその外国人を放免しなければなりません。

③-2 退去強制事由に該当すると認定、認定に異議なし→退去強制

しかし、退去強制事由に該当すると認定した場合には、入国審査官はその外国人に対して口頭審理の請求ができる旨を知らせた上で、審査の結果を書面で伝えることになります。

その外国人が口頭審理放棄書に署名するなど「口頭審理の請求をしない」旨の意思表示をした場合には、速やかに退去強制令書を発付することにより、退去強制が行われることとなります。

4.特別審理官の口頭審理

一方、その外国人が入国審査官による通知を受けた日から3日以内に口頭審理の請求をした場合には、特別審理官による口頭審理が行われることとなります。口頭審理は退去強制手続の第三段階とも言え、前段階の入国審査官が行った「退去強制事由に該当する」という認定に誤りがないかを再検討するものです。

4-1 認定に誤りがあると判定→放免

審理の結果、入国審査官の認定に誤りがある、つまり「退去強制事由に該当しない」となればその外国人は直ちに放免されることとなります。

しかし、認定に誤りがないと判定した場合には、特別審理官はその外国人に対して異議の申出ができる旨を知らせた上で、判定の結果を伝えることになります。

4-2認定に誤りがないと判定→異議なし→退去強制

5.法務大臣の裁決

前段階と同様に、通知を受けた外国人は3日以内に法務大臣に対して異議申し出をすることができます。これが退去強制手続の最終段階です。異議の申出があれば、法務大臣は異議の申出に理由があるかどうかを裁決することになります。

異議の申出には「不服の理由を示す資料」を提出しなければならないとされており、その内容としては以下のような理由が規定されています。

①審査手続に法令の違反がある

②法令の適用に誤りがある

③事実の誤認がある。

④退去強制が著しく不当である

上記①~③について異議の申出に理由が認められれば、その外国人は直ちに放免されることとなり、逆に異議の申出に理由が認められなければ退去強制令書が発付されることとなります。

6.在留特別許可

ただし、このように法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決した場合でも、以下のような場合には法務大臣は在留を特別に許可することができるとされています。

①永住許可を受けているとき

②かつて日本国民として日本に本籍を有したことがあるとき

③人身取引などにより他人の支配下に置かれて日本に在留するものであるとき

④その他、法務大臣が特別に在留が許可されるべき事情があると認めるとき

これが在留特別許可と呼ばれるものであり、国際結婚に関連して在留特別許可を受ける場合には、その大半が④の理由に該当するものと思われます。在留特別許可はこのような退去強制手続に基づき行われ、法務大臣の裁決の特例は、法務大臣の自由裁量にゆだねられています。