ここでは、永住権申請の法律上の要件についてご説明します。

日本人、「永住者」又は特別永住者の配偶者又は子(普通養子及び特別養子を含む)である場合には、次の3が要件となります。

難民の認定を受けている者の場合には1、3が要件となります。

それ以外のいの場合は1、2、3が要件となります。

なお、申請人が「留学」又は「技能実習」の在留資格をもって在留する場合は、これらの法律上の要件を満たさないとして、実務上、永住許可はなされない扱いとなっています。

目次

1.素行が善良であること(素行善良要件)

a.日本国の法令に違反して、懲役、禁錮又は罰金に処せられたことがある者

 ⑴「刑法34条の2」の刑の消滅の規定の適用を受ける者

  ①禁錮以上・罰金以下の刑の場合

  ②刑の免除の場合

 ⑵執行猶予の場合

b.少年法による保護処分が継続中の者

c.日常生活又は社会生活において、違法行為又は風紀を乱す行為を繰り返し行う等素行善良と認められない特段の事情がある者

 ・道路交通法違反について

 ・窃盗、資格外活動制限の超過等について

2.独立生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(独立生計要件)

 ・独立生計要件は帯単位でみる

 ・「経営・管理」からの永住許可申請

 ・生活保護を受けている場合

  ・・日本人の配偶者が生活保護を受けている場合

  ・・定住者が生活保護を受けている場合

 ・年収について

3.その者の永住が日本国の利益に合すると認められること(国益適合要件)

a.原則として引き続き10年以上日本に在留していること(日本継続在留要件)が必要

 ・「引き続き日本に在留する」とは

 ・長期出国について

 ・「就労資格又は居住資格をもって継続して5年以上在留」とは

 ・永住許可申請中に転職した場合

b.納税義務等公的義務を履行していることを含め、法令を遵守していることが必要

 ・納税について

 ・健康保険料について

 ・年金について

 ・扶養者の公的義務履行等法令遵守状況

c.現在の在留資格について、最長の在留期間をもっていることが必要

 ・「家族滞在」1年の場合

d.公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないことが必要

e.著しく公益を害する行為をするおそれがないと認められることが必要

 ①日本国の法令に違反して、懲役・禁錮若しくは罰金に処せられたことがあること

  ・徴役又は禁錮について

  ・罰金について

 ②少年法による保護処分が継続中であること

 ③日常生活又は社会生活において、違法行為又は風紀を乱す行為を繰り返していること

f.在留特別許可又は上陸特別許可を受けた者について

g.原則として、公共の負担となっていないことが必要

1.素行が善良であること(素行善良要件)

法律を遵守し、日常生活においても、住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいることを意味します(「永住許可に関するガイドライン」)。

具体的には、次のa~cのいずれにも該当しない者であることを意味します。

a.日本国の法令に違反して、懲役、禁錮又は罰金に処せられたことがある者

ただし、以下の場合は、上記に該当しないものとして扱われます。

⑴「刑法34条の2」の刑の消滅の規定の適用を受ける者

「刑法34条の2」は、刑の消滅について、次のように定めています。

①禁錮以上・罰金以下の刑の場合

禁錮以上の刑の執行を終わり、又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで、10年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失います。

罰金以下の刑の執行を終わり、又はその執行の免除を得た者が、罰金以上の刑に処せられないで、5年を経過したときも、同様です。

②刑の免除の場合

刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで、2年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失います。

⑵執行猶予の場合

執行猶予の言渡しを受けた場合で、執行猶予の言渡しを取り消されることなく、執行猶予の期間を経過し、その後さらに5年を経過したとき

b.少年法による保護処分が継続中の者

c.日常生活又は社会生活において、違法行為又は風紀を乱す行為を繰り返し行う等素行善良と認められない特段の事情がある者

上記aに該当しない軽微な法令違反であっても、同様の行為を繰り返し行う者や、地域社会に多大な迷惑を及ぼす活動を繰り返し行う者が該当します。

例えば、道路交通法違反等軽微な法違反であっても、繰り返し行う者はこれに該当します。

・道路交通法違反について

道路交通法違反については、実務上、いわゆる1点ケース(単に通行禁止帯を通行した場合等)については、それだけでは、素行善良要件を満たさないとはされません。

しかし、明らかな故意による違反ケース(飲酒運転、無免許運転、20キロを超えるスピード違反等)では、善良要件を満たさないとされる可能性が高いです。

・窃盗、資格外活動制限の超過等について

刑に処せられていなくても(有罪判決を受けて確定していなくても)、以下のような場合は、素行善良と認められない可能性が高いです。

・窃盗(万引き)の前歴が複数ある場合

・資格外活動許可の制限を超過した就労を行っている場合
例えば、「家族滞在」の在留資格を有し、資格外活動許可を得ているものの、週28時間を超えて就労している場合等

2.独立生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(独立生計要件)

日常生活において公共の負担になっておらず、かつ、その者の職業又はその者の有する資産等から見て、将来において、安定した生活が見込まれることを意味します。

すなわち、生活保護を受給しておらず、現在及び将来において、いわゆる「自活」をすることが可能と認められる必要があります。

・独立生計要件は帯単位でみる

この独立生計要件は、必ずしも申請人自身が具備している必要はありません。

申請人が配偶者等とともに構成する世帯単位で見た場合に、安定した生活を続けることができると認められる場合には、これに適合するものとして扱われます。

・「経営・管理」からの永住許可申請

「経営・管理」からの永住許可申請においては、経営する会社の安定性及び継続性も審査され、経営する会社について欠損が連続しているような場合は、独立生計要件該当性に問題ありとされる可能性があります。

・生活保護を受けている場合

・・日本人の配偶者が生活保護を受けている場合

実務上、日本人の配偶者からの永住許可申請においては、生活保護を受けていたとしても、その一事をもって、不許可とされることは原則としてはありません。

そもそも、日本人の配偶者からの永住住許可申請においては、「入管法22条2項柱書ただし書により、独立生計要件そのものは課されないので、国益適合要件として問題となりうるのみです。

・・定住者が生活保護を受けている場合

「定住者」(日本人等の配偶者の地位にある者を除く)からの永住許可申請においては、生活保護を受けていれば、独立生計要件を満たさないと判断される可能性が高いです(児童扶養手当の受給はかまいません)。

・年収について

また、生活保護は受けていないものの、非課税状態である場合は、予断を許さないといえます。

就労系資格(日本人等の配偶者の地位にある者を除く)からの永住許可申請においては、年収がおおむね300万円に満たないと、他の事情との総合判断ではあるものの、不許可となる可能性があります。

なお、子が身体障害者である場合において家庭の生活事情を説明した書面を提出したときは、実務上、独立生計要件について柔軟に配慮されることがあります。

3.その者の永住が日本国の利益に合すると認められること(国益適合要件)

a.原則として引き続き10年以上日本に在留していること(日本継続在留要件)が必要

また、この期間のうち、就労資格又は居住資格をもって、継続して5年以上在留していることが必要です。

したがって、「留学」又は「技能実習」の在留資格から就労資格又は居住資格への在留資格の変更許可を受けて在留する者については、この10年以上在留している期間のうち、就労資格又は居住資格をもって継続して5年以上在留していることを要します。

・「引き続き日本に在留する」とは

なお、「引き続き日本に在留する」とは、在留資格が途切れることなく、在留を続けることをいいます。

再入国許可(みなし再入国許可を含む)を受けて一時的に海外に赴く場合は、在留が継続していることになります。

しかし、再入国許可を受けずに出国したり、海外滞在中に再入国許可が失効したりすると、その者の在留資格は消滅し、在留が継続していることになりません。

数次有効の査証を利用し、再入国許可を受けずに出入国している外国人については、日本での活動期間が通算して長期になっても、継続して在留しているとはみなされません。

・長期出国について

また、再入国許可を受けての出国であっても、例えば、「3年」の在留期間の半分以上の期間を、海外出張等により海外で生活しているような場合は、生活の本拠が日本にないとされ、合理的な理由がない限り、許可されない可能性があります。

実務上、再入国許可による出国期間が長期間にわたり、日本における生活基盤がない可能性があると思料された事案については、単に年間の出国期間の合計日数のみを根拠に不許可とするのではありません。

長期出国の理由、過去の出国期間、家族状況(子の日本の学校への通学の有無等)、資産状況(日本における持ち家の有無等)、日本における今後の生活や活動の計画等を総合的に考慮して判断されます。

例えば、就労資格で在留中の者が、会社の業務上の都合から、海外で業務等を行わなければならず、長期間にわたり再入国出国していた場合であっても、業務等終了後は、日本においてずっと生活すると見込まれる場合には、合理的な理由があるものとして取り扱われえます。

しかし、そのような事情を具体的かつ詳細に主張立証できなければ、不許可とされる可能性が高いです。

実務上、海外出張が終了して日本に再入国した後、永住許可申請までに6か月程度以上の在留実績が求められる可能性が高いです。

・「就労資格又は居住資格をもって継続して5年以上在留」とは

また、上記の「就労資格又は居住資格をもって継続して5年以上在留」とは、在留資格該当性がある状態での直近の5年以上の在留を意味します。

したがって、例えば、就労資格で3年間会社に勤務した後、自己都合で退職した上で、学校に1年間通い、その後、就労資格で2年間会社に勤務している場合は、就労資格の在留資格該当性がある状態での直近5年ではないので、要件を満たしていません。

それに対し、自己都合ではなく、勤務している会社の要請で大学等に通い、その後、就労資格で再度会社に勤務している場合は、在留資格該当性がある状態での直近5年に準じるとして、要件を満たすと判断される可能性があります。

・永住許可申請中に転職した場合

就労資格をもって在留している者が、永住許可申請中に転職した場合は、転職後の業務について「就労資格証明書」を取得する必要があります。

b.納税義務等公的義務を履行していることを含め、法令を遵守していることが必要

・納税について

例えば、納税の申告は適正に行っているものの、その一部しか納付していない場合は、公的義務を履行しているとは認められません。

納税義務者である個人が得る給与や公的年金を支払う事業者(特別徴収義務者)が税金等を代わって預かり、その徴収すべき税金等を納入させる特別徴収による地方税等の未納がある場合は、そのことを理由に当該要件に適合しないものとは扱われません。

・健康保険料について

実務上、健康保険料を支払っていないことが判明した場合は、原則として不許可となります。

・年金について

年金についても、未加入・未納であることが判明した場合は不許可となることが増えています。

・扶養者の公的義務履行等法令遵守状況

なお、実務上、申請人本人が被扶養者である場合にあっては、扶養者が公的義務を履行しているなど、法令を遵守していることが必要とされます。

c.現在の在留資格について、最長の在留期間をもっていることが必要

当面の間は、在留期間「3年」を有する場合は、「最長の在留期間をもって在留している」ものとして取り扱われます。

・「家族滞在」1年の場合

実務上、「家族滞在」をもって在留する者が、「3年」の在留期間を付与されている本体者とともに永住許可申請する場合において、本体者が永住許可相当と判断されるときは、「家族滞在」をもって在留する者の在留期間が「1年」であっても、他の要件を満たす限り、永住許可が認められます。

d.公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないことが必要

具体的には、
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律6条」で規定する一類感染症、二類感染症、指定感染症、新感染症の罹患者又は麻薬、大麻、あへん及び覚せい剤等の慢性中毒者等は、公衆衛生上の観点から有害となるおそれがあるものとして取り扱われます。

e.著しく公益を害する行為をするおそれがないと認められることが必要

「著しく公益を害する行為をするおそれ」の有無については、現在及び過去の行状等から総合的に判断されますが、次の①~②に掲げる事実等は、上記の素行善良要件とも重複して、当該「おそれ」があると認定される要素となりえます。

「永住許可に関するガイドライン」においても、国益適合要件として、罰金刑や懲役刑等を受けていないことが挙げられています。

①日本国の法令に違反して、懲役・禁錮若しくは罰金に処せられたことがあること

※原則として、刑法犯又はこれに準ずる犯歴を有するものに限り、それ以外のいわゆる行政法上の義務の履行を担保する目的の行政犯で、かつ、軽微なものは含みません。

・徴役又は禁錮について

徴役又は禁錮について、以下の場合は、該当しないものとして扱われます。

・・その執行を終わり若しくはその執行の免除を得た日から10年を経過したとき

・・刑の執行猶予の言渡しを受けた場合で、執行猶予の言渡しを取り消されることなく、執行猶予の期間を経過し、その後さらに5年を経過したとき

・罰金について

・・その執行を終わり又はその執行の免除を得た日から5年を経過したとき

・・刑の執行猶予の言渡しを受けた場合で、執行猶予の言渡しを取り消されることなく、執行猶予の期間を経過したとき

②少年法による保護処分が継続中であること

③日常生活又は社会生活において、違法行為又は風紀を乱す行為を繰り返していること

f.在留特別許可又は上陸特別許可を受けた者について

在留特別許可又は上陸特別許可を受けた者にあっては、次のいずれかに該当することが必要です。

①再入国許可期限の失念等により、上陸特別許可を受けた日からで引き続き1年以上日本に在留していること。

なお、上陸特別許可を受ける以前の適法に在留していた期間は、上記の「引き続き在留している期間」に含まれます。

②在留期限の失念等により不法残留し、在留特別許可を受けた日から引き続き1年以上日本に在留していること。

なお、在留特別許可を受ける以前の適法に在留していた期間は、永住許可の取扱いにあっては、上記の「引き続き在留している期間」に含まれます。

③(①又は②の類型以外での)在留特別許可又は上陸特別許可を受けた日から引き続き3年以上日本に在留していること。

なお、当該在留特別許可又は上陸特別許可を受ける以前の適法に在留していた期間は、永住許可の取扱いにあっては、上記の「引き続き在留している期間」には含まれません。

g.原則として、公共の負担となっていないことが必要

入管法22条2項柱書ただし書又は61条の2の11の適用を受けない者が、公共の負担となっている場合は、独立生計要件を満たさないものと判断されます。

他方、入管法22条2項柱書ただし書の適用を受ける日本人、永住者又は特別永住者の配偶者又は子の場合は、公共の負担となっていたとしても、独立生計要件に該当しないことをもって、永住許可の法律上の要件を満たさないとすることはできません。

実務上、公共の負担となっていることに合理的な理由(高齢、身体障害又は疾病等により明らかに就労することが困難であることが認められる場合等)が存するときは、その理由を考慮した上で、国益適合要件の該当性を判断するとされています。